農村地域における
コミュニティ再生のための
実践的計画論に関する研究その2

NPO法人たんばぐみ(まちづくり部会)
横山 宜致
竹見 聖司
金野 幸雄

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はじめに

 本研究は、昨年度に実施した同名の研究(以下「研究(その1)」)の続編にあたるもので、昨年度に引き続き、財団法人21世紀ヒューマンケア研究機構の支援を受けて実施するものである。

 研究(その1)では、全国の「まちづくり条例」、兵庫県丹波地域の「里づくり計画」について先進事例の調査を行ったうえで、「里づくり計画制度」の望ましいあり方を提示した。本研究では、「里づくり支援制度」(里づくり計画策定及び里づくり活動に対する支援制度)について調査し、その望ましいあり方を提示する。

 なお、今回調査を進めるなかで、研究(その1)で想定した計画項目以外の新たな計画項目を見出したので、里づくり計画の計画フレーム(テーマ、項目)を、表1のとおり修正・拡張している。

1.既存の計画制度

 まず、研究(その1)において調査対象とした13件のまちづくり条例を、今回の計画フレームに即して、表2のとおり再整理した。計画内容の欄を見ると、1〜8番の条例は「空間計画系」、11〜13番は「活動計画系」、9番と10番は「空間+活動計画系」の計画制度であることが分かる。

表2 全国の先進的なまちづくり条例とその計画内容

※住民が主体となって策定する計画の内容を表1のテーマ欄の記号で示した。

表1 里づくり計画の内容

※里づくり計画に盛り込まれると考えられる計画内容を6つのテーマと30の項目に区分している。
※行政と協働で行う空間保全型の計画テーマが上部に、住民主導で行う活動型の計画テーマが下部になるよう並べている。

2.既存の支援制度

次に、支援制度の現状を把握するため、丹波地域において活用できる「里づくり支援制度」を調査した。調査にあたっては、行政の各部局が発信している文書情報やホームページ情報を収集するとともに、必要に応じて担当部局に直接ヒアリングを行うなど、活用できる全ての支援制度を把握するように努めた1)。この結果、兵庫県16件、篠山市8件、丹波市2件、合計26件の支援制度(表3)の情報を得た2)。
これらの制度の支援内容を、表1の計画フレームを用いて整理したところ、行政の支援制度には、2つの評価軸が設定できることが分かった(図4)。

ひとつは[計画−活動]の軸であり、「主として計画策定(空間計画の策定、活動計画の策定)を支援する制度」と「主として活動計画に基づく里づくり活動を支援する制度」に区分される。もうひとつは[行政−集落(住民)]の軸であり、「行政が特定の政策目的を達成するために設けた支援制度」と「住民の自由な発意による計画づくりを支援する制度」に区分される3)。

表3 丹波地域で活用できる里づくり支援制度一覧

「計画支援」は、住民が行う里づくり計画策定に対する支援であり、支援内容は、アドバイザー派遣、コンサルタント派遣等の形態となっている。

このうち、表3の<計画支援1>のグループに該当する2件の支援制度は、開発行為、建築行為に対する規制を行う目的で制定された条例(表2の7番及び8番)の実効性を確保する目的で設置した支援制度である。これらの条例では、地区の土地利用調整や景観形成に関するルール(表1のテーマT及びU)を里づくり計画として策定することとなっているが、この計画策定には地域計画に関する専門的な知識が必要となることから、アドバイザーの派遣、コンサルタントの派遣といった支援が不可欠である。

 これに対し、<計画支援2>の2件の支援制度では、特に計画テーマを限定せず、住民が行う里づくり計画策定全般(表1の全テーマ)を支援対象として、アドバイザーの派遣、コンサルタントの派遣等の支援を行っている。
 「活動支援」は、住民が何らかの里づくり計画に基づいて実施する里づくり活動に対する支援であり、支援内容は活動資金の助成、物資の提供等の形態となっている。

 このうち、<活動支援1>の17件の支援制度は、特定の活動テーマ(表1のテーマV〜Yのうち特定の項目)を掲げて設置された支援制度である。丹波地域では、拠点施設整備、里山づくり、生涯学習、緑花、都市交流等を活動テーマ(=政策目的)として、活動資金助成等の支援を行っている。
 これに対し、<活動支援2>の5件の支援制度では、特に活動テーマを限定せず、住民が行う里づくり活動全般(表1のテーマV〜Y)を支援対象として、活動資金助成等の支援を行っている。

図4 里づくり支援制度の2つの評価軸

3.集落から見た支援ニーズ

行政サイドが、現時点で、政策課題をどのように認識しているか、どのような政策意図を持っているかは、<計画支援1>及び<活動支援1>に属する支援制度から推測することができる。前章で見たように、まちづくり条例の運用のほか、拠点施設の整備、生涯学習、都市と農村の交流等のテーマを政策目的として掲げていることが分かる。

 そこで、逆に、住民サイドがどのようなテーマの里づくりを指向しているかを見るために、<計画支援2>及び<活動支援2>に属する以下の支援制度について事業の実施状況を調査した。

表4は、<計画支援2>「丹波まちづくり支援事業」により、当法人がアドバイザーとして支援した案件を整理したものである。これは、同事業が創設された平成15年度以降の3年間の支援実績であるが、11の集落から様々な計画テーマについて支援ニーズがあったことが分かる。

表4 丹波まちづくり支援事業の実施状況(H15〜17)

図5は、<活動支援2>「地域団体活動パワーアップ事業」の支援件数を整理したものである。この事業は、地域団体が実施する地域づくり活動を支援するもので、支援対象となる活動が限定されておらず、予算規模も大きいことから幅広い支援実績がある。丹波地域では、同事業が創設された平成15年度以降の3年間に、小学校区15地区、集落53地区、合計68地区において延べ136件の里づくり活動が実施されている4)。図5を見ると、実に多様な計画テーマで里づくり活動が行われていることが分かる

4.事例調査

ここでは、当法人が、本研究に合わせて実施した里づくりに関する取り組みを紹介しながら、NPOとしての集落支援の考え方を述べる。

(1) 集落データベースの作成
本研究を進めるにあたっては、調査対象とした集落(例えば表4、図5に該当する集落)の情報(集落名、旧村名、人口・世帯数、活動主体・活動グループ、集落自慢、里づくり計画の内容、里づくり活動の実績、その他)をデータベースとして蓄積することとした。
これは、当法人が今後実施する集落支援の際の基礎資料となるものであるが、今後里づくりに取り組む集落が先行事例として参照する、集落連携を考える際の基礎情報として活用する、といった使い方も意図している。このため、当法人のホームページ上に、集落の位置情報とともに掲載する予定である。
 
(2) 丹波地域の地勢と人口動態の把握
各集落が置かれている地理的な空間領域を把握するために、研究(その1)で整理したランドユニット(水系に基づく単位空間)及び旧村の領域を図化した。また、人口特性を把握するために、旧村を単位とした人口動態区分(A〜Eのランク分け)を図化した5)。
これもまた、集落支援や集落連携を考える際の基礎資料となると考えている。

(3) 集落自慢大会「M−1グランプリ」の開催
昨年度に引き続き、他の団体と協働して、里づくりをテーマとしたフォーラムを開催した。先進集落の里づくり活動を報告し、情報交換を行う会であることに変わりはないが、今年度は、「M−1(むらワン)グランプリ」と銘打って、グランプリ、準グランプリの集落を表彰することとした。イベント性を高めることで、参加者に楽しんでもらおうという趣向である(表6)。
 また、今回から丹波地域外の集落等からもエントリーを募った。最終的に、丹波地域5地区、地域外4地区、合計9地区が、1地区あたり12分のプレゼンテーションで集落自慢を競った(表7)。来年度以降も「M−1グランプリ」の形式で開催し、丹波地域で実施する全県版の里づくりイベントとして定着を図っていく考えである。

表6 里づくりフォーラムの概要

表7 「M−1グランプリ」における各集落等の発表内容

(4) アドバイザー派遣
 当法人では、集落からの要請を受けて、またはこちらから集落に働きかけて、里づくり支援を行ってきた。その主な取り組みは、表4に記載したとおりである。

 支援内容は、里づくり初動期の立ち上げ支援、里づくり計画策定や里づくり活動に関するアドバイス等であるが、コーディネーターとしての役割を果たすことが特に重要であると考えている。つまり、外部(他の集落、団体、企業、地域、文化等)との新たな関係性を築くことが集落の活性化につながると考えている。
例えば、丹波市大名草では、「加古川源流の耕作放棄地(棚田)」という課題と「都市部への販路」を繋ぐことで「丹波源流米」というブランドが生まれた。篠山市北野新田では、「旧街道の佇まい」という資源と「明かり作家」を繋ぐことで手作り灯篭「丹波たんころ」の並ぶ町並みが生まれた。このように、新しく縁を結ぶことで新たな価値を創出し、里づくり活動を活気づけるよう心がけている。

5.里づくり制度のあり方

ここまで、1章ではわが国の既存の里づくり計画制度、2章では丹波地域における既存の里づくり支援制度、3章では丹波地域の里づくり活動の実施状況について調査分析し、客観的な事実を述べてきた。また、4章では当法人の里づくり支援の内容と考え方について述べた。
 本章では、これらの事実を踏まえながら、コミュニティ再生のための里づくり制度についていくつかの視点から考察し、その望ましい制度設計のあり方を提言したい。2年間の研究の総括として、以下に、研究(その1)と重複する部分も含めて述べていく。

(1) 里づくり制度の必要性と有効性
 コミュニティ再生のために、里づくり制度が必要である、または有効であると既に実証されている訳ではない。制度そのものの歴史が浅く、現時点でその必要性や有効性を軽々に評価することはできない。
 しかし、地区の住民が頻繁に寄り合って、自分たちの地区について学習し、考え、将来像を描き、共有すること、そして共に活動することは、そのこと自体がコミュニティを活性化する効果を有している。コミュニティ構成員相互のこうしたリアルな関係性以外にコミュニティ再生の拠って立つ基盤はなく、里づくり制度は、その関係性の構築に貢献するよう制度設計する必要がある。

(2) 里づくり計画の内容
1章で見たように、まちづくり条例に基づく既存の計画制度は、空間系の計画制度と活動系の計画制度に大別できる。土地利用調整、景観形成基準といった空間系・開発規制型の計画テーマは、集落空間を保全し、高質化するために欠かせない計画分野であるが、計画策定後は地区住民が受け身の立場になるという特質を持っている。特に、開発圧力の低い地区では、せっかく地区住民が頻繁に寄り合って計画を策定しても、その後は休眠状態になるのが実態である。
これに対し、活動系の計画テーマは、計画策定後に住民の能動的な活動につながるという特質を持っている。そして、里づくり活動を実践することは新しい里づくり計画を発案することにつながるので、計画と活動が次々と展開されることが期待できる。
このように、空間系と活動系の計画テーマはどちらも重要であり、ひとつの里づくり計画のなかでバランス良く取り扱うことが望ましい。また、2〜4章で見たように、実際の計画ニーズは実に多様で、集落の置かれている状況によって様々である。さらに、里づくりの進展・成長に合わせて計画を逐次見直していくことが想定される。
これらを勘案すると、里づくり制度は、空間系及び活動系の計画テーマ全体について横断的・総合的に取り扱えるよう制度設計する必要がある。

(3) 里づくり計画へのアプローチ
計画テーマ全体を総合的に取り扱う計画制度とするからといって、当初から総合的な里づくり計画の策定を目標とする必要はない。例えば、村祭りの復活や都市住民との交流など地区が取り組みやすい活動系の計画テーマから始めることが考えられる。
それぞれの地区の課題や実状に応じて、必要な計画項目だけを選択して計画策定できる制度、「どこからでも入れる」ハードルの低い制度となるよう制度設計する必要がある。

(4) 里づくり計画の区域
 丹波地域における里づくりは、大半が集落を単位として計画策定され、活動が実施されている。農村地域では、一般に、人間関係は希薄になりながらも集落コミュニティが依然として機能しており、集落区域と異なる区域設定は考えにくいのが実態である。
ただし、3章で見たように、小学校区(旧村区域)等を単位として、集落間の交流を図る活動も見受けられる。また、里づくりにはリーダーやスタッフといった一定の人材が必要であるため、人口減少が進み、単独では活動が困難な集落が隣接集落と連携を図るケースも存在すると考えられる。
コミュニティ再生のための里づくり制度は、集落区域をベースとしながら、必要に応じて小学校区等の区域も選択できるよう制度設計する必要がある。

(5) 里づくりの推進組織
既存のまちづくり条例では、里づくり計画の策定主体として「里づくり協議会」等の設立を求めている条例が多いが、一方、策定主体を自治会とする条例、策定主体の組織形態には触れていない条例もある。
何れにしても地区住民等で構成される地縁的組織が想定されている訳であるが、(4)で述べたように集落や小学校区等を計画単位とした場合、コミュニティ再生とは自治会の再生そのものであり、意志決定はあくまで自治会の総会や役員会で行う方式とするのが筋である。自治会が形骸化、機能低下しているからと言って、安易に里づくり協議会を設立することは1つの地区に2つの意志決定機関を設けることであり、コミュニティに混乱をもたらすことになりかねない。

 コミュニティ再生のための里づくり制度は、あくまで自治会や連合自治会が推進組織となるよう制度設計する必要がある。なお、4章の表7に見られるように、里づくり活動の実施主体として「里づくり委員会」等の活動組織を置く場合があるが、こうした組織も、あくまで自治会等の附属機関として位置づけるべきものである。

(6) 行政の支援
既存のまちづくり条例には、一般に、条例を施行する自治体が推進組織に対して支援を実施する旨の規定がある。これは条例の実効性を担保するための措置であり、里づくり計画策定には専門家(アドバイザー、コンサルタント)の派遣を、里づくり活動には活動資金の助成を実施する事例が多い。
条例設置の支援制度であれ、要綱設置の支援制度であれ、既存の里づくり支援制度は必ずしもコミュニティの再生を目的として設けられたものではない。行政の企画部局、農林部局、まちづくり部局等がそれぞれの分野別施策として支援制度を設け、運用してきた経緯がある。このため、2章で見たように、本来は多岐に渡る計画テーマのうち特定のテーマや項目を対象とする支援制度として制度設計されていることが多い。

しかし、3章で見たように実際の支援ニーズは実に多様であり、住民サイドに立てば、支援制度は計画制度と同じように分かりやすい形に一元化されていることが望ましい。コミュニティ再生のための里づくり制度は、計画制度と支援制度を一体的・総合的に制度設計する必要がある。
なお、3章で取り上げた地域団体活動パワーアップ事業と同種の事業で注目に値するのが米国シアトル市の近隣マッチングファンド・プログラムである。この事業では、助成額にマッチする(匹敵する)ボランティア労働や自己資金を提供することを助成要件としているのであるが、これは、参画と協働という理念を具体的な形式にしたものと考えることができる。支援制度の制度設計にあたっては、施策の理念をこのような分かりやすい形で表現する工夫も大切である。

(7) NPOの役割
 地区の住民が、集落の状況に危機感を覚え、あるいは良好な生活環境の創出の必要性を感じたとしても、必ずしも里づくりに関するノウハウやツールを持ち合わせている訳ではない。このため、NPOには、里づくり制度について説明し、計画策定や活動をサポートしていくアドバイザーとしての役割が期待される。
更にNPOには、里づくり制度によるコミュニティ再生を地域全体の大きな住民運動として育てるためのコーディネーターとしての役割を期待したい。NPOにとっても、使命としている農業振興、多自然居住、都市交流、企画イベント等の事業のフィールドやプレイヤーを獲得できるという利点がある。4章で述べたように、地域に根ざした独自のネットワークや情報発信機能を生かして、集落に新しい価値を創出するようなサポートを期待したい。また、例えば都市との交流事業を複数の集落で受け入れる仕組みづくりを行うなど、地域全体の価値を高める取り組みもNPOに期待したい。
 コミュニティ再生のための里づくり制度は、地域のNPOが積極的に参画できるよう制度設計する必要がある。

(8) まとめ
 以上から、里づくり制度が備えるべき要件は次のとおりである。コミュニティの再生、集落の活性化を進めるためには、このような事項に配慮して制度設計し、制度運用することを推奨したい。
【里づくり制度の要件】
・集落を単位とする
・人と人、集落と集落を縁結びする
・あらゆる計画を計画できる
・たったひとつの計画であっても認める
・必要な支援策が用意されている
・専門家やNPOが活躍する
・自治会が生まれかわる
・集落の誇りに形を与える

おわりに

たんばぐみでは、丹波県民局、篠山市、丹波市と協働して、3年前から里づくり支援に取り組んできた。そして、住民による自主的な活動の実践を通じてこそコミュニティがいきいきと再生することを実感している。
本研究は、これまでの支援活動の成果を振り返り、わが国における農村コミュニティ再生の方策を提言するために行ったものである。サステナブルな地域社会づくりが求められるなか、今後、全国の農村地域において里づくり条例制定等の取り組みが進行すると考えられる。新たな制度設計や制度拡充の際に本研究が参考になれば幸いである。
 本研究を進めるにあたっては、中瀬勲氏(兵庫県立人と自然の博物館副館長)、大方潤一郎氏(東京大学工学部都市工学科教授)に多くの助言、協力をいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。


1)本研究の対象が「農村コミュニティ(集落、小学校区等の地域団体)が行う里づくり」であることから、支援対象が自治会、自治会連合会、これらの婦人会、老人会等となっている支援制度を選定した。NPOなどテーマ型で広域的な活動を行う団体を対象とした支援制度は選定しなかった。
2)収集した26件の支援制度の情報については、その概要を取りまとめた資料を作成して、後述するM−1グランプリにおいて配布した(本報告書の付録を参照)。今後も当法人の支援活動において活用する考えである。
3)あくまで、制度設計の意図が「特定の政策目的を達成」することにあるのか、「住民の自由な発意を促す」ことにあるのかの評価軸であり、何れにしても住民が主体的に計画策定を行うことに変わりはない。
4)商工会、青年会議所、消費者団体、婦人会連合会、音楽サークル等広域的な活動を行う団体、趣味の団体は調査対象から除外した。ただし、小学校区単位、集落単位で活動する婦人会、趣味の団体等については調査の対象とした。
5)今回の図化作業のなかで、昨年度調査結果の水系区分等に一部誤りがあったので修正した(最終成果は本報告書の付録を参照)。







 
             
 
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